こちら、カヨ研究所!

自分を研究するためのブログ。言語聴覚士。

『コンビニ人間』「普通」じゃないことに言い訳は必要か

恵子は、社会の「普通」がわからない。
小さい頃からそうだった。
公園で鳥が死んでいるのをみて、周りの友達は「かわいそう」と泣いた。
恵子は、焼き鳥にして今晩食べようと母に言った。
恵子には不思議だった。
「せっかく死んでるのに」その小鳥をお墓に埋めることが。
死んだ小鳥をかわいそうと言いながら、公園の花をブチブチ殺している友達が。

社会の「普通」がわからない恵子は努力した。
家族も恵子が「治る」ことを望んだ。
「普通」がわからないまま恵子は大人になった。

恵子は、コンビニ店員という仕事にめぐりあった。
「いらっしゃいませー!」研修のビデオ通りのトーンで声を出す。
今まで誰も具体的に「普通」を教えてくれなかった。
そこで、恵子は初めて「世界の部品」になることができた。
そこで、恵子はやっと「自分が生まれた」と思った。

☆☆☆☆☆

公園の小鳥のエピソードを読んだ時は、ギョッとした。
私も「かわいそう」と思う側だからだ。
まさか食べようなんて思わない。
でもなぜ公園の死んでいる鳥はかわいそうで、
昨日食べた唐揚げのために死んでくれた鳥にはお墓も作らないのか。
聞かれても答えられない。

そんな「普通」サイドの私でも、恵子に共感することは多かった。
恵子はコンビニバイト歴18年、彼氏なしの36歳。
恵子にとってコンビニで働くことがどれだけ大切か。
何も知らない外野は根掘り葉掘り聞いてくる。
そして裁く。
自分にはその権利があるというように。
そんな場面では、言い訳が便利だと恵子はいう。
「普通」の妹に、うまい言い訳を考えてもらっている。

わかる。
私も時々思う。
面倒くさい。
言い訳を考えることが。
ただ「気持ちいいから」「気持ち悪いから」「好きだから」「嫌いだから」じゃだめかね。
「普通」じゃないことは、裁かれなければいけないことなのか。

恵子ほどではなくても、私にも「普通」サイドではない部分はある。
それは誰にでもある。
人に根掘り葉掘り聞かれて鬱陶しい気持ちがわかる。
だから私も周りにそうしないようにしたい。
気づかないうちにやってしまうから怖い。

物語の最後、恵子はみんなが喜ぶ「普通」をぶち破る。
自分が「生きている!」と思える方に突き進む姿が爽快だった。


今週のお題「名作」